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言葉の人体への影響 ― 言葉による暴力

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言葉で人は死に至ることがある

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Photo: スマートフォンで行われるいじめ

 

いじめの実態

2014年、宮城県でいじめを苦に自殺した中学1年生の父親がいじめ防止のための対策を文部科学省に求め、体験をもとに、暴力行為よりも言葉によるいじめ対策が必要だと訴えた。文科省が公表した調査では、いじめの内容は、からかいや悪口などが63.5%を占めている。LINEやツイッターなどのSNSによる誹謗中傷や嫌がらせも急増している(注1)。

2016年8月青森県で、中学1年生の男子生徒が自ら命を絶った。亡くなる前に男子生徒が書き残したメモには「いじめがなければもっと生きていたのにね、ざんねん」と書かれていた。この少年は暴力を振るわれたわけではなく、言葉による暴力に耐えきれずに死を選んでしまった(注2)。

 

言葉の暴力と物理的な暴力

殴ると脅される場合と実際に殴られる場合で、どちらが害が大きいか?

答えは明白である。殴られると体に物理的な損傷を受けるが、脅しでは受けない。

しかし科学的には、それほど単純ではない。言葉は神経システムに強く作用する。体に害を受けなくとも、精神的苦痛から被害者は病気にかかり、脳に変化が起こり(ニューロンが死に)、寿命を縮めることになる。

 

免疫系

人間は怪我をすると、体の免疫システムは炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質を作り出して免疫力を高める。すなわち炎症が起こる。ある種の状況では、このサイトカイン自身がは病気を引き起こす。この状況として慢性的なストレスがある。

 

テロメア

人間の細胞内の染色体の端にはテロメアと呼ばれる粒子があり染色体自体を保護している。細胞分裂ごとにテロメアは短くなり、テロメアがなくなると細胞分裂できなくなり、死を迎える。これが人間の正常の老化である。これ以外に、ストレスによってもテロメアは短くなることが知られている(注3)。

 

言葉は暴力になる

他人から悪口を言われると、人はストレスを感じる。長期のストレスは健康に有害であるため、言葉は使われ方によっては物理的な暴力と同等である。

 

マイクロアグレッション

無意識な差別的言動(マイクロアグレッション)は人を攻撃したり不快にするだけでなく、過去の心の傷をえぐり出してしまう。言った側はいじめの認識がないが、言われた側は深刻に受け止め自殺する場合もある。教育現場では、この点の認識が不足しており、若者の自殺が後を絶たない。

 

ストレスへの耐性

不快な言葉だけでは体や脳には害は現れない。神経システムは不快なことに耐えれるように発達しているからである。

人間は訓練や教育により他人による不快な言動を楽しむこともできる。

人は、全く意見の異なる立場に置かれると、他の見方についても学ぶことができる。この状況では不快であっても、良いストレスであり、一時的であることから体には害が及ばない。さらに、学べることから、長い目で見ると利益の方が大きい。

 

長期のストレスのリスク

これに対して、長期のストレスは蓄積し、神経システムに害を及ぼす。厳しい環境で長期間ストレスに曝されると、免疫力が低下して感染病にかかりやすくなり、更に脳のリモデリングにより鬱病にもかかりやすくなる。

 

言葉で人は死に至る

言葉は使い方により暴力になるため、人に対して無神経な発言は控えるべきである。

 

注1:「自殺した中学生の父親“言葉によるいじめ”対策訴え」、テレ朝ニュース

注2:「中1いじめ自殺『いわれて一番嫌だった言葉』がノートの最後に本当に小さな文字で」、週刊女性PRIME

注3:Stacy Lu, “How chronic stress is harming our DNA”, American Psychological Association

 

参考資料

Lisa Feldman Barrett, “When Is Speech Violence?”, New York Times JULY 14, 2017

 

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