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遺伝子における優性と劣性の意味

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遺伝子は環境により働き方が異なる。

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Credit:  目の色の遺伝、Genetics and Eye Color、XoletteScience

 

遺伝子の優勢と劣勢は特定の表現型が親からどのように受け継がれるかを表している。

人や他の動物など有性生殖種は父と母から受け継いだ遺伝子が対になっている。これらは対立遺伝子と呼ばれ、わずかに異なる。

この相違により作られるタンパク質に変化が生じる。タンパク質は形質に影響するため、タンパク質の発現における変化により異なる表現型になる。

優性対立遺伝子は片親から受け継いだ1つの対立遺伝子を有する子供の優性表現型を作り出す。

子供が両親からそれぞれ劣勢対立遺伝子を受け継ぐと劣勢表現型が現れる。1つの優性対立遺伝子及び1つの劣勢対立遺伝子を受け継いだ子供は優性表現型になる。

この子供たちは劣勢対立遺伝子のキャリアとなり、劣勢対立遺伝子は存在するが、劣勢表現型は現れない。

 

用語の混乱と誤解

遺伝病発生の可能性を予測するとき優性および劣勢遺伝の概念が役に立つ。

しかし、これらの用語は遺伝子が形質をどのように特定するかを正しく説明できない。

すなわち、優性と劣勢対立遺伝子が作用する統一的なメカニズムは存在せず、優性対立遺伝子は物理的に劣勢対立遺伝子を支配又は抑圧することはない。対立遺伝子が優勢か劣勢かはこれらにより作り出されるタンパク質の特性により異なる。

これらの用語は主観的であるために混乱が生じる。鎌状赤血球症のように同一の対立遺伝子は見方により優勢にも劣勢にもなりうる。

 

鎌状赤血球対立遺伝子

遺伝パターン

鎌状赤血球症は遺伝病で痛みと内臓や筋肉の損傷を特徴とする。この病気では赤血球は円盤状ではなく鎌状である。

長く先の尖った赤血球が毛細血管で詰まり、血流が止まってしまう。十分な酸素と栄養が筋肉と臓器に供給されないため組織が死んでしまう。

この病気は劣勢遺伝パターンである。すなわち、鎌状赤血球症の対立遺伝子が2個ある場合に限りこの病気を発症する。この遺伝病は鎌状赤血球症の対立遺伝子が1個しかない場合は病気にかからない。

この遺伝子は鎌状赤血球症を発症する他、マラリアに対する抵抗力をもたらす。マラリアに対する抵抗力は優勢遺伝パターンである。鎌状赤血球症の対立遺伝子が1個あれば感染が防止できる。これは同一の対立遺伝子であり、劣勢対立遺伝子のパターンでは鎌状赤血球症を発症する。

鎌状赤血球症の対立遺伝子が2個ある人は鎌状赤血球が多数ある。

正常の対立遺伝子が2個ある人は赤血球の形状が正常である。鎌状赤血球症の対立遺伝子が1個あり正常の対立遺伝子が1個ある人は鎌状赤血球が少数あり、特定の状況で正常な赤血球が容易に鎌状になる。

従って、赤血球の形状は共優性遺伝のパターンであり、1個の対立遺伝子があれば中間的な表現型になる。

すなわち、鎌状赤血球症の対立遺伝子が優勢、劣勢、又は共優勢かは見方により異なる。

 

タンパク質の機能

鎌状赤血球症対立遺伝子により僅かに異なるヘモグロビン・タンパク質が作り出される。このタンパク質は酸素を運搬するが、低酸素状態ではこのタンパク質は鎌状になる。

鎌状赤血球症の対立遺伝子を2個有する人は、全てのヘモグロビンに粘着性があり、このタンパク質は非常に長く硬い線維を作り出し、赤血球を歪める。鎌状赤血球症の対立遺伝子を1個有し、正常の対立遺伝子を1個有する人は、ヘモグロビンの一部にしか粘着性が生じない。

非粘着性のヘモグロビンは正常の対立遺伝子により作られ、粘着性のヘモグロビンは鎌状赤血球症の対立遺伝子から作られる。全ての赤血球には両方の対立遺伝子があるため、粘着効果は希釈され、ほとんどの赤血球ではタンパク質は線維を作らない。

マラリアを引き起こす原生動物は赤血球の中で成長と増殖を行う。鎌状赤血球症対立遺伝子がマラリアに抵抗力を持つメカニズムは複雑で、完全には理解されていないが、寄生虫は変化したヘモグロビンを有する赤血球内では増殖が緩やかになり、感染した赤血球は容易に歪むため容易に血流から除去され破壊されると考えられている。

 

優勢遺伝と劣勢遺伝の誤解

優勢表現型は必ずしも劣勢表現型より一般的ではない。

優勢対立遺伝子と優勢対立遺伝子では優勢表現型が、優勢対立遺伝子と劣勢対立遺伝子では優勢表現型が、劣勢対立遺伝子と劣勢対立遺伝子では劣勢表現型が現れる。このことから、優勢表現型が劣勢表現型の2倍の頻度で現れる訳ではない。

 

劣勢対立遺伝子が高頻度で現れることがある。

目の色は2個の遺伝子により影響を受けている。目の色が黒でない人は劣勢対立遺伝子を受け継いでいる傾向にある。目の色が黒い人は優勢対立遺伝子を受け継いでいる傾向がある。スカンジナビア諸国では、これら遺伝子の劣勢対立遺伝子を有する人が優勢対立遺伝子を有する人より遥かに多い。

 

優勢対立遺伝子は劣勢対立遺伝子より優れていない。

遺伝の良し悪しは環境により異なり、優勢か劣勢かは無関係である。

 

壊れた対立遺伝子では優勢の遺伝パターンが現れる。

多くの遺伝病では壊れた遺伝子が正常に機能しないタンパク質を作り出す。正常の対立遺伝子1個で病気の対立遺伝子の効果を無効にするのに十分なタンパク質を作り出すことができる。これらの遺伝病は劣性遺伝パターンである。しかし、全ての病気の対立遺伝子が劣勢ではない。

ケラチンタンパク質は強い線維を作り出し髪の毛、爪、皮膚、及びその他の組織を強化する。ケラチン遺伝子には数種の遺伝病があり、これらの多くには優勢遺伝パターンがある。

 

参考文献:

What are Dominant and Recessive?”, University of Utah Genetic Science Learning Center

Genetics and Eye Color、XoletteScience