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悪い遺伝子は取り除くべきか? ― 遺伝子と環境の調和

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現在の悪い遺伝子が過去には人類を救ってきた

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Image: Genetic Screening

 

遺伝子検査

近年、遺伝子検査技術が進歩しており。夫婦の遺伝子を調べることにより、子供に重大な病気が起こるリスクがあるか調べることができる。子供がほしい夫婦が遺伝子検査を行ったところ、夫婦それぞれに病気がなくとも、病気の遺伝子を有していれば(常染色体劣性遺伝)、生まれてくる子供が両親からそれぞれ、この遺伝子を受け継いだ場合、病気を発症するリスクが高くなる。

 

遺伝子編集

更に、精子、卵子、又は胚から異常のある遺伝子を取り除く技術に注目が集まっている。この技術を使えば、家系から遺伝子病を完全に取り除くことができる。この技術は遺伝子編集(Crispr-Cas9)と呼ばれている。

この技術は実現までに数年が必要だとされているが、これまで治療できなかった病気を克服できることになり、医学に革命的な変化が起こるとされている。しかし、遺伝子を操作することにより、どのような影響が出るかは予測不可能である。

 

遺伝子変異の効果

肺病である嚢胞性繊維症を発症する遺伝子変異は、北西ヨーロパで多く見られ、この地域の25人に1人が1対の遺伝子の片方にに変異がある。この1対の遺伝子の両方に変異があるとこの病気を発症するが、1対の遺伝子の片方に変異がある場合は数百年に渡りヨーロパで猛威を奮った肺結核を免れてきたと考えられている。

遺伝子変異はこれまで人類を絶滅から救ってきている。このような遺伝子変異を取り除くことは人類の将来において正しい選択か疑わしくなる。

 

現代医学が直面している問題

現代医学が直面している問題として、治療できない病原体が増え続けていることがあげられる(例えば、HIVやSARS、結核の耐性菌など)。世界経済の発展により、人や物の移動が増加することにより新たな病原体の出現が加速している。このような状況において、様々な遺伝子を有する人の存在は、予想不能な事態に対して抵抗力を持つことができる。悪い遺伝子も役に立つ可能性がある。

 

環境により遺伝子の発現が変化

病気に関係する遺伝子の発現は環境により変化することがわかっている。

過去の衛生状態における微生物相では、遺伝子変異による病気が発症を防げており、自己免疫疾患に関係する一部の遺伝子変異は細菌への感染を防止している。

 

遺伝子と環境の調和

一部の遺伝子は有害であり、何ら人間に利益をもたらさないものがあるが、有害と考えられていた遺伝子が人類の生存に寄与したり、少なくとも環境によりほとんど害を及ぼさないこともある。遺伝子は現在の人間に有害であっても、環境により働きが変化する。

人類は今日と全く異なる環境で進化してきている。一部の遺伝子は過去の環境で最もよく機能していた可能性がある。従って人の遺伝子を現代の基準で最適化することは人類生存の観点から非常に危険である。我々の近代の生活はまだ150年しか経過していない。次の150年で環境がどのように変化することは予測不可能である。従って、人の遺伝子を現在の環境に合わせることは全く不合理である。

そこで、遺伝子コードを書き換えるのではなく、微生物相を変化させて、遺伝子と環境との調和を図るべきである。

 

参考資料:

Moises Velasquez-Manoff , “The Upside of Bad Genes”, New York Times JUNE 17, 2017

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