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医学よもやま話

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冠動脈バイパス移植術 ― 伏在静脈と内胸動脈

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移植用の血管は体に備わっている

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credit: 内胸動脈、TERUMO

 

冠動脈バイパス移植手術

アテローム性動脈硬化による冠動脈狭窄は患者に病状を引き起こし、重症化すると死に到る。冠動脈狭窄は血管造影検査で判定でき、狭窄冠動脈の血流を迂回させる血管移植を行えば、冠動脈の血流が改善又は維持される。これにより、心臓の病状が軽減し、余命が長くなる。この閉塞した冠動脈を迂回する手術が冠動脈バイパス移植手術である。これまで多くの患者に冠動脈バイパス移植手術が行われ、患者の病状の緩和と、生存率の向上に寄与している。

 

手術で使用される体内の血管

冠動脈バイパス移植手術で使用される体内の血管は主として、下肢伏在静脈及び内胸動脈である。

 

伏在静脈

伏在静脈は採取が容易で、冠動脈より太く、適した特性などの利点があるが、採取後、時間が経過すると、伏在静脈に固有の病理変化、血管内膜線維増殖、及びアテローム性動脈硬化が起こる。これらの変化は狭窄又は閉塞を引き起こす。手術後約10年で伏在静脈の約30%は閉塞し、残りの、30から35%にはアテローム性動脈硬化が見られる。伏在静脈を移植した場合は、血小板抑制剤やスタチンによる治療で移植不全のリスクを低減させる。

内胸動脈

内胸動脈は移植後時間が経過してもアテローム性動脈硬化は起こらない。内胸動脈を採取して、冠動脈の左前下行枝に使用すると、手術後20年における血管開存率は90%以上である。

左前下行枝は重要な冠動脈であるため、予後に強く影響する。左内胸動脈を左前下行枝に移植した場合、伏在静脈の移植と比較して長い生存、再手術の低減、心臓の病状の改善が期待できる。

右内胸動脈をそのまま大動脈から冠動脈への移植や左内胸動脈から冠動脈の複合動脈移植として使用できる。2本の内胸動脈を使用した場合は片方の内胸動脈移植と比較して比例した効果が得られ、再手術のリスクが低くなる。

 

冠動脈バイパス移植手術

冠動脈バイパス移植手術では胸骨正中切開、心肺バイパス、大動脈遮断、及び心筋保護液を行う。この手術では心筋の機能を保護しながら、顕微鏡を使った吻合が行えるように心臓を停止させる。

 

オフポンプ手術

心肺バイパスを使用しないで、心臓を動かしたままの手術(オフポンプ手術)が広く行われている。オフポンプ手術は合併症を減らすために開発された手術法であるが、従来のオンポンプ手術と比較して合併症を防止することはできず、移植血管の開存率は低くなっている。

 

冠動脈バイパス移植術の死亡リスク

冠動脈バイパス移植手術による死亡リスクは手術時の虚血、左心室の機能、冠動脈狭窄の範囲、心臓外のアテローム性動脈硬化、及び共存症に大きく関係する。

患者が70歳未満で重度の共存性がなく、冠動脈バイパス移植手術が経験のある外科医が行えば、狭窄冠動脈の数に関係なく、死亡リスクは1%未満である。左心室不全があると死亡リスクが僅かに増加する。急性心筋梗塞、不安定性狭心症、又は経皮冠動脈形成術後の急性血管閉塞による心筋虚血がある場合は死亡リスクが高くなる。

心臓以外の重い共存症(大動脈アテローム性動脈硬化、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、及び血液凝固障害)があると、死亡リスクが高くなる。

合併症

冠動脈バイパス移植術後の最も重大な合併症は脳卒中であり、大動脈性又は脳血管性アテローム性動脈硬化及びアテローム動脈硬化性塞栓症による。胸骨正中切開による創傷合併症のリスクは1から2%である。創傷合併症のリスク要因として肥満、糖尿病、及び両側内胸動脈移植がある。

 

生存率

冠動脈バイパス移植後の生存率は年齢、手術前の心臓疾患の重症度、心臓以外の既往症、アテローム性動脈硬化の進行度、及び手術の結果により異なる。これら要因の多くは治療により改善する。

冠動脈バイパス移植術による長期の生存率の差は減少しているが、狭窄のある冠動脈の数、左の冠動脈狭窄、左心室の機能のレベルにより異なる。完全な血管の移植(移植血管ですべての狭窄した冠動脈をバイパスする)及び内胸動脈を使用すれば長期の生存率の向上と、症状が改善する。

冠動脈バイパス移植術後、患者の生存率は伸びている。手術後、患者の80%以上が10年以上生存している。長期に渡り、アテローム性動脈硬化の進行の抑制、血圧とコレステロールの治療、抗血小板療法により冠動脈バイパス移植手術の利点が発揮される。