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医学よもやま話

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iPS細胞の臨床応用を阻害しているもの

医療技術

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「遅い、高い、危険」から「早い、安い、安全」へ

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京都大学のiPS細胞研究所の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞したのは2012年のことでした。これ以降、再生医療に注目が集まり。一部臨床試験も開始されているとの報道も耳にしますが。最近では少しトーンが落ちてきたような気がします。その原因はどこにあるのでしょうか。

 

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イメージ出典:京都大学iPS細胞研究所ホームページ

 

問題は3つありました。「遅い、高い、危険」です。

 

第1の問題は培養にかかる時間です。患者の組織から採取した細胞をiPS細胞に変え、更に疾患部の組織にするの非常に長い時間がかかります。例えば網膜色素上皮の細胞シートを作成するに10ヶ月かかっています。

 

第2の問題は費用の問題です。iPS細胞シートを作り患者に移植するのに5,000万円以上必要です。実用化されても恩恵を受けれるのは一部富裕層に限られ、庶民は恩恵を受けられません。保険適用すると財政が破綻します。

(最近、高額な薬としてで注目を集めているのが肺癌治療薬「ニボルマブ」です。1年服用すると3500万円かかります。誰が払えるのでしょうか?)

 

第3の問題は安全性の問題です。すなわち癌化と奇形腫が発生するリスクです。iPS細胞の作成には高能率と安全性のジレンマを抱えています。世界中で多くの人材と多額の予算を使ってiPS細胞の研究が行われていても、これらのリスクを回避するのは容易ではありません。2015年にようやく理化学研究所で加齢黄斑変性の患者に対するiPS細胞の網膜色素上皮細胞シートの移植の臨床研究が始まったばかりです。アメリカFDAはiPS細胞を使った再生医療の障害は奇形腫が発生することだと考えています。

 

これら3つの問題を解決するのが、他人由来のiPS細胞を使った再生医療です。

 

京都大学iPS細胞研究所は備蓄したiPS細胞を主要な研究機関に配布を始めています。

 

京都大学iPS細胞研究所では2012年よりiPS細胞を備蓄に取り掛かっており、この細胞を使用して移植用の組織シートを作成すれば数ヶ月シートの完成時間が短くなり、費用も1000万円程度に抑えられます。また他人由来のiPS細胞を使用すると免疫による拒絶反応が起こりますが、ヒト白血球型抗原(HLA)の型を適合させることにより拒絶反応が抑えられることが分かっています。

 

大阪大学の澤芳樹教授等のグループは患者の太ももの筋細胞を培養し、弱った心筋に培養したシートを貼ることにより、心臓の機能を回復させることに成功しています。次の段階として、患者の筋細胞を使わずにiPS細胞由来の心筋シートの臨床研究の準備を始めています。

 

慶応大学の岡野栄之教授等のグループはiPS細胞から効率的にオリゴデンドロサイト前駆細胞へと分化誘導する方法を開発し、マウス損傷脊髄の再髄鞘化に成功しています。次の段階として、脊髄損傷に対するiPS 細胞由来の神経幹細胞移植の人への臨床応用を目指しています。

 

「早い、安い、安全」なiPS細胞を使った再生医療の実現が期待されています。