医学よもやま話

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タバコとアルコールの相乗効果で食道癌のリスクが高まる

食道扁平上皮癌

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2020年東京オリンピックを控えて、厚生労働省は屋内完全禁煙を目指しているが、圧力団体(タバコ業界、飲食業、それに一部政治家)が猛烈に反対しているため、実現は不可能だと思われる。近くに喫煙者がいれば、受動喫煙は避けられない。受動喫煙により、肺のみならず、食道にも重大な影響が現れ、生死にかかわる問題を引き起こす。

 

食道と食道癌

食道は液体と固形食物を胃に送れるように蠕動運動を行う筒状の器官である。

食道粘膜は層化した扁平上皮で粘膜下組織及び筋層を覆っている。

食道の一番内側の粘膜は重層扁平上皮で覆われており、ここに生じる悪性腫瘍が食道扁平上皮癌で日本人の食道癌の90%以上はこの種類に属する。

 

疫学

食道扁平上皮癌は男性では癌による死亡の順位が高い。これは喫煙と飲酒が関係しているものと思われる。50歳未満では男女とも発症率は低く、加齢により増加する。

 

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閉塞性睡眠時無呼吸の治療

連続気道陽圧療法 - CPAP

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Photo:  CPAP装置、パシフィクメディコ

 

閉塞性睡眠時無呼吸は睡眠断片化、無酸素症、心血管および脳血管のストレスを引き起こす。

この病態の最も一般的な治療法が連続気道陽圧療法(CPAP療法)(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)である。この治療法では専用の装置を使用する(装置は高額で付属品込みで15から20万円)。

 

この治療法は閉塞性睡眠時無呼吸の症状が軽度の患者で、顕著な酸素不飽和、日中傾眠、又は呼吸、心血管、又は脳血管の病気を併発している場合に推奨される。

連続気道陽圧療法は認知機能及び心不全患者で左心室の機能を向上し、自動車運転時の居眠りによる事故のリスクを低減する。

この治療法では患者の上気道に固定圧力の空気を供給し、正常な呼吸を維持し、継続した深い睡眠が可能にする。

この結果、無呼吸低呼吸指数の低下、酸素不飽和の低減、日中及び夜間の血圧低下、並びに睡眠効率、日中の傾眠、及び生活の質を改善する。この治療法は、特に、1時間あたり無呼吸低呼吸指数が30以上の患者に効果がある。

 

参考文献: Giles T, et al., ” Continuous positive airways pressure for obstructive sleep apnoea in adults

食道運動障害にかかったら

噴門痙攣(アカラシア)の症状と治療方法

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症状

噴門痙攣の主な症状は液体と固形食物の嚥下障害、胃酸の逆流、及び胸痛である。患者によっては胃酸の食道うっ滞による胸やけ、体重減少、及び誤嚥性肺炎などのはっきりしない症状が現れる。このような症状では診断が遅れる。

 

診断

噴門痙攣は食道圧測定法とバリウムX線検査で行う。X線画像では食道が拡張し、バリウムがうっ滞し、下食道括約筋が鳥の嘴のような広がりが見られる。

食道圧測定法では下食道括約筋に高い残留圧力と蠕動収縮の消失が示される。

二次性噴門痙攣の原因として悪性腫瘍随伴症候、特に肺小細胞癌がある。腫瘍が抗神経抗体を作り出し下食道括約筋の自己免疫神経叢症として一次性噴門痙攣と似た症状が現れる。

近位胃癌など、ある種の腫瘍は下食道括約筋に転移又は直接浸潤するため噴門痙攣のような症状が現れる。このような場合は、内視鏡検査で確定診断を行う。内視鏡では患者は食道の拡張と食べた物のうっ滞が見られる。

 

治療

噴門痙攣の治療法として下食道括約筋の閉塞を解消する。主な治療法はボツリヌス毒素の注射、空気圧拡張、及び噴門筋層切開術がある。内視鏡検査時にボツリヌス毒素を注入することにより症状が改善し患者の90%で食道のうっ滞を解消が可能(注1)。

ボツリヌス毒素療法では、症状が1ないし2年で再発するため、より限定的な治療が受けれない患者にのみ適用する。従って、効果は限定的である。

臨床、X線検査、及び食道圧測定法で噴門痙攣が確定できないときにも、ボツリヌス毒素治療を行う。

空気拡張法では、X線検査装置を使用して食道括約筋を広げるために30から40mmのバルーンを留置する。バルーンを膨らませて下食道括約筋の筋繊維を引き裂く。一般的に、拡張法の5年成功率は40%である。空気拡張法では、患者の5%に穿孔のリスクがある。

第3番目の治療法がヘラー筋層切開術である。腹腔鏡を使用して行う。胃底ヒダ形成術を行い、胃食道逆流を防止する。

食道機能障害は体重減少、再発性誤嚥性肺炎、又は気管支圧迫を生じる。これらの病態は命にかかわるため、食道部分切除が必要になる。噴門痙攣の原因が悪性腫瘍の場合は、癌治療を行う。

 

予後

いずれの治療方法も対処療法であり、症状の緩和を目的とし、完治は期待できない。症状の再発は不完全な筋層切開、胃底ヒダ形成術におけるヘルニア又は縫合不全、食道狭窄、又はバレット食道による。噴門痙攣患者は食道の扁平上皮癌に進行するリスクがあるため、毎年検査を受ける必要がある。

 

注1) Leyden JE, et al, “Endoscopic pneumatic dilation versus botulinum toxin injection in the management of primary achalasia

閉塞性睡眠時無呼吸のポリソムノグラフィ検査

閉塞性睡眠時無呼吸では覚醒時には低換気にはならないが、他の低換気障害では低換気症状が現れる。

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Photo:  気道陽圧自動滴定装置、TOP SNORING MOUTHPIECES

 

睡眠性呼吸障害には閉塞性睡眠時無呼吸以外に睡眠により症状が悪化する低換気・ガス交換障害と中枢性無呼吸がある。前者には夜間喘息、慢性閉塞性肺疾患及び肥満性低換気症候群が含まれる。

閉塞性睡眠時無呼吸では覚醒時には低換気にはならないが、他の低換気障害では低換気症状が現れる。患者に過眠症がある場合は閉塞性睡眠時無呼吸を疑う必要がある。

 

ポリソムノグラフィ検査

閉塞性睡眠時無呼吸はポリソムノグラフィ検査で確定診断を行う。この検査では脳波、電気眼球図記録(レム睡眠の判定)、心電図、足と顎の筋電図、呼吸、酸素飽和度、及び肺胞又は動脈二酸化炭素(呼気終末又は経皮二酸化炭素)などを測定する。

患者の睡眠状態を録音録画することにより、いびきと胸腹部奇異呼吸を検出して、閉塞性睡眠時無呼吸の診断を確定することができる。

閉塞性睡眠時無呼吸の重症度は無呼吸低呼吸指数で判定する。この指数は睡眠1時間毎の閉塞性無呼吸と低呼吸の回数を表す。

閉塞性無呼吸、減呼吸、及び閉塞回数(酸素不飽和の異常として覚醒を引き起こす)により呼吸障害指数を表す。酸素不飽和は心血管に影響を及ぼす慢性間欠性低酸素症に直接関係する。

心肺モニターと気道陽圧自動滴定装置を使用して患者の自宅で無呼吸低呼吸指数を診断することができる。気道陽圧自動滴定装置は上気道のインピーダンスの変化に応じて気道に供給する陽圧のレベルを連続自動調整する。自動滴定により重度の閉塞性睡眠時無呼吸患者の診断と治療が可能である。

英語でZで始まる病気は何か?

答えはZoster、帯状疱疹である。

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Photo: 抗ウイルス薬アシクロビル(ヘルペスウイルスに対して有効)

 

帯状疱疹は水痘感染で神経に長い年月潜伏していた水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化で発症する。

 

症状

帯状疱疹は知覚神経に沿って皮膚表面の紅斑上に帯状に広がった痛みを伴う水痘の集まりある。

主たる症状は皮膚分節における強い痛みで、水痘が消えた後も、激痛と触覚過敏症が残る(帯状疱疹後神経痛)。免疫不全患者では皮膚播種や膀胱、肺、及び中枢神経系の障害リスクが高くなる。

 

治療

帯状疱疹の治療及び帯状疱疹後神経痛の予防には抗ウイルス薬アシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビルが安全かつ有益である。免疫不全患者には、アシクロビルを静脈投与する。

抗ウイルス治療を早期に開始すれば、帯状疱疹の治癒までの期間が短縮し、帯状疱疹後神経痛の予防や症状軽減に有効である。

 

予防

60歳以上の高齢者は水痘帯状疱疹ウイルス・ワクチン投与により、帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛を良好に予防することができる。

食道運動障害とは

食道括約筋が弛緩できなくなり、嚥下障害や誤嚥性肺炎が起こる。

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Photo:  舌圧子(口腔内や咽頭を見るとき、舌を押し下げるために用いるへら状の器具)

 

食道運動障害は口腔咽頭機能障害と噴門痙攣にわけられる。

 

口腔咽頭機能障害

食道の輪状咽頭部及び下部咽頭収縮部は横紋筋により構成され上部運動神経、脳幹、及び大脳皮質の支配を受けている。

筋疾患及び神経疾患のいずれも口腔咽頭機能障害を起こす。口腔咽頭嚥下障害で最も一般的な神経性の原因は脳血管障害である。

口腔咽頭の機能に影響を及ぼすこの他の神経疾患として重症筋無力症、脳幹腫瘍、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ポリオ後症候群、ギラン・バレー症候群、及びボツリヌス中毒がある。

口腔咽頭機能障害を引き起こす筋疾患には腫瘍随伴性抗体症候群、甲状腺疾患、皮膚筋炎のような原発性筋疾患、及び薬剤性筋疾患がある。

口腔咽頭機能障害では嚥下障害、食後の咳、しわがれ声、誤嚥性肺炎が生じる。潜在的な筋疾患又は神経疾患の治療が必要のため、予後は悪い。

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ケモブレイン - 化学療法性認知障害

抗癌剤治療を受けている間、及びその後、記憶や認知機能に一時的に障害が現れる。

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乳癌の生存者には記憶やその他の認知障害が現れる。

抗癌剤の治療を受けた乳癌患者に認知障害の症状が現れることが1980年代に報告されていた。当時は乳癌治療後に生じる軽度の認知障害と捉えられていた。

この症状を医学的には化学療法後認知障害又はケモブレインという。

ケモブレインと言う言葉は1997年に論文で最初に使用された。

この認知障害は乳癌で使用された抗癌剤が原因とされている。

これまで化学療法性認知障害の原因と存在については意見の別れるところであったが、最近の研究から抗癌治療患者の一部で現れる薬剤の副作用であることが判明した。患者によっては認知障害は治療期間中であるが、他の患者では治療が終わっても長い期間認知障害が残っている。化学療法性認知障害は特に生殖器に関係する癌で化学療法を行った患者に多く見られる。乳癌、子宮癌、前立腺癌など。

 

有病率

化学療法性認知障害は一般に乳癌患者の10から40%で生じ、閉経前の女性及び高用量の抗癌剤で治療を受けた患者の有病率が高い。

 

症状

抗癌剤で最も影響を受ける体のシステムは視覚及び意味記憶、集中と運動調整である。抗癌剤によるこの副作用で患者は同時に複数の作業ができず、本を読んでも内容が理解できず、会話についていけず、言葉を思い出すことも困難になる。

臨床研究によれば、抗癌剤で治療の1年後、患者の脳は萎縮していたのに対して、この治療を受けなかった患者の脳は萎縮していなかったことが判明している。

化学療法性認知障害は一時的に生じるが、10年以上続く場合もある。

 

メカニズム

化学療法性認知障害の原因についての詳細は完全には解明されていないが、抗癌薬が脳に直接作用し、更にホルモンが神経系に影響を与えていると考えられている。

抗癌剤治療開始前に乳癌患者に認知障害があること、認知障害と閉経症状の類似、閉経前の女性における化学療法性認知障害の有病率の高さ、及びエストロゲン服用により症状が軽減することから認知機能におけるホルモン、特にエストロゲン、が化学療法性認知障害に大きく関わっている。

 

予後

抗癌剤で治療を受けた乳癌患者は治療後認知障害の影響を受けるが、症状は約4年で解消する。